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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)2409号 判決 1985年8月07日

原告

西村忠岩

被告

宇賀照久

外三名

右四名被告訴訟代理人

津留崎直美

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事   実《省略》

理由

一被告らにより文書偽造もしくは変造行為がなされたことを原因とする不法行為について判断する。<省略>

二告発及びそれに付随もしくは派生して生じた事由を原因とする不法行為について検討する。

1  請求原因3(一)のうち、主張のとおりの告発がなされたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右告発事実については昭和五五年六月に大阪地方検察庁において嫌疑不充分との理由で不起訴処分とされ、同処分については大阪第一検察審査会による処分不当の議決を経て、さらに右検察庁による捜査がなされ、不起訴処分(理由不明)とされたこと、同告発により当該告発行為と告発にかかる事案の概容並びに告発を受けた警察署において捜査を開始した旨の新聞報道がなされたことを認めることができ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

2  被告らが、右告発にかかる横領事実の無いことを知りながら右告発行為をしたことは、本件全証拠によるもこれを認めることができず、同趣旨をいう原告本人の供述はこれを措信することができない。

3  そこで、被告らが右告発をしたことにつき過失があつたかどうか検討する。

(一)  原告において、別紙の「第二犯罪事実」欄記載のとおりの趣旨の金員である事業委託金二〇万一一〇〇円並びに金二一万五四〇〇円(ただし、同記載の各種分担金を控除した残金であるかどうかは争いがあるので除く)を連合町会のために会長として同記載の各日時に、また、同欄記載のとおりの趣旨の金員である各種補助金一万一一〇〇円、金一万五二〇〇円、金三〇〇〇円(ただし、昭和五三年八月二二日受取のもの。)、金一万九〇〇〇円及び金一万八九〇〇円を喜連北支部のために同支部長として同欄記載の各日時に、それぞれ交付を受けたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。

昭和五三年九月一一日の喜連北支部の集会において、すでに原告が連合町会の会長として同町会の盆踊り行事に要する費用との名目で会計係より仮受金として交付を受けていた金五二万円の会計報告が未了であることが問題となり、原告はその報告を求められた。原告は、同要請について、右仮受金は乙第三〇号証の一のとおり昭和五二年度地域振興会分担金として金七万一九〇〇円及び昭和五三年度右同分担金八万円並びにその他の諸経費を合計した金五二万〇三〇〇円の使途に供され仮払金勘定として処理した旨の報告を行い、右報告に供された書面には原告作成にかかる各出金伝票(乙第三〇号証の三及び同号証の五)、平野区地域振興会会計部長作成の各領収書(同号証の四及び同号証の六)などの各伝票写が添付されていた。しかし、右仮払金として処理された各分担金等について、被告宇賀らによる調査がなされたところ、昭和五二年度及び昭和五三年度の大阪市から連合町会及び喜連北支部への事業委託料分配金及び各種交付金が別紙の「第二犯罪事実」欄記載のとおり原告に支払われているにもかかわらず、その旨原告から会計報告がなされておらず、また、右仮払金処理されたという区地域振興会分担金として連合町会において負担する金員も、右事業委託料分配金が会長である原告に交付される時に同分配金から差引控除される取り扱いになつており、そのとおり控除されているのに盆踊り費用としての仮受金の使途として仮払金処理されているのは費用の二重計上になるのではないかとの疑問が生じた。そこで、昭和五三年一〇月九日に連合町会及び婦人部長会議が開催された際、被告宇賀ら出席者から原告に対し、右疑問点の生ずる情況についての説明が求められ、昭和五二年度会計報告をやり直す旨の議決がなされた。原告は、右指摘を受けて連合町会の監査役である被告西井に対し昭和五二年度会計についての昭和五三年一〇月一〇日付「再会計監査の申立」と題する資料添付の書面(乙第三六号証の一ないし四)を提出した。同書面には、昭和五二年九月三〇日付で会計担当者に送達したとする収支清算書と題する書面(乙第三六号証の三)が添付されており、そこには昭和五二年度分の事業委託料分配金及び日赤社資募集事務費名目の収入金額と同収入金額の対応支出費目が記載されていた。しかし、同記載の金額については会計報告及び監査もなされておらず、支出の費目及び金額の説明について不明瞭な部分を残すものであつた。昭和五三年一〇月二〇日、右問題の処置について、被告ら合計二〇余名の町会長及び町婦人部長らによる緊急集会(原告不在)が開催され、原告の提出した前記書面の報告と内容について説明がなされた後に、会長及び支部長である原告の身分上の処置をめぐつて議論され、連合町会会員の意向として罷免通告をする方向で決議がまとめられ、その際原告の右態度から併せて告訴も検討すべき旨の意見も出された。そして、同月二一日、前記経緯から不明瞭とされる会計上の合計金額二六〇万三〇八三円を連合町会及び喜連北支部に返還することを求めると共に、所定の返還なき場合は告訴する旨の同団体役員一五名連記の公金返還請求書並びに罷免通告書が原告に対し送付された。そのうえで、被告宇賀、同松本、同西井等は、右処置を各上部団体に通告すべく平野区役所に赴き、併せて昭和五二年度の事業委託料分配金及び昭和五三年度中の交付金の資料の提出と説明を受けた。原告は、右通告書を受けて、被告宇賀及び同森に対する書面(乙第四五号証、第四六号証の一ないし三)を各送付したが、その内容は、昭和五二年度事業委託料分配金は同年九月三〇日付の書類一切と共に当時の会計担当被告松本に送付して前記乙第三六号証の三の内容どおり決裁済であつて、被告らの右処置について全面的に争うというものであり、被告らの疑惑に対し納得できる説明を付加するものではなかつた。被告等を含めた団体役員合計一五名は、原告の右態度を受けて、同月二七日付をもつて原告に対し再度公金返還の通知をし、弁護士を代理人として本件告発行為に及んだ。

(二) すると、告発にかかる横領事実は本件全体証拠によるもこれを認めることはできないところ、右認定のとおりの告発に至る経緯、内容並びに検察審査会において検察庁に対し初回の不起訴処分についてさらに捜査を尽くすべき旨の議決をしていることとを総合すると、本件告発は、公的団体の財産について、その会計管理の適正を図る目的でなされたものであり、かつ、被告らにおいて告発にかかる事実を真実と信じるについて相当な理由があつたものと認めることができるので、右告発行為に及んだことにつき被告らに過失があつたものということはできない。

この点、原告は、横領したとされる昭和五二年度委託料分配金については昭和五二年四月二九日の役員会及び同年五月六日の連合町会の町会長会議で各報告済である旨(乙第三六号証の二等)述べるが、当該事実については、<証拠>によれば、右委託料分配金の交付が決定されたことを右各会で報告したことをうかがえないわけではないものの、同報告をもつて、その後に交付された同委託料分配金の受領報告であるとは未だこれを認め難い。そして、原告は、昭和五二年九月三〇日付で当時の会計担当である被告松本に右委託料分配金受領の報告をした旨も述べるところ、この事実については、本件全証拠によるもこれを未だ認めることはできない。なるほど、弁論の全趣旨により真正に成立(ただし、以下の甲号証中の○検、○済とある部分の成立は後記のとおり。)したと認められる甲第八四ないし第八六号証、第八九号証が存するところ、それらを同じく原告作成(ただし、以下の乙号証中の○検、○済とある部分の成立は後記のとおり。)にかかる乙第三六号証の三、第三〇号証の一、同号証の三及び前記のとおり作成、添付されていた同号証の四と対照すると、右○検、○済とある各部分が原告以外の会計担当職の地位にある第三者により作成されたかもしくはその承認を得て原告が作成したとは認め難いうえに、右甲号各証中の「昭和五二年八月二二日」、「昭和五二年九月三〇日」等と記載された作成日付のころに同号証が作成されたとは直ちに措信し難く、ましてや、それら甲号証から被告松本への右委託金受領の報告がなされたとの事実を未だ認めることはできない。また、昭和五三年度委託料分配金を受領した旨の報告が乙第三〇号証の一のとおりの報告がなされる以前に会計担当者になされたとの事実も、未だこれを認めることはできない。また、原告は、横領したとされる交付金について、自己の従前の立替金と相殺等による決済をした旨述べるところ、仮に原告が連合町会や喜連北支部に対し何らかの立替金債権を有しており、連合町会等の団体財産は同債権の弁済に充当されたもので、原告自身同財産から利得するところがなかつたとしても、それら交付金について団体財産として会計上の入出金の報告を明確にすべき団体役員としての職責が消滅するものではなく、この報告が問題となつている交付金について被告らの指摘あるまでになされたとの事実は認め難い。そこで、本件告発行為は、右のとおり会計報告がなされていないか著るしく不明瞭であつたことにより、被告らにおいて原告に対し疑惑をいだき、同疑惑について説明を幾度か求めたものの原告から納得のいく説明を得られなかつたため、なされるに至つたものであり、同告発に及んだ経過自体としてみても、唐突であるなど非難されるべき余地を残すものではなく、同告発行為について被告らに過失のあつたことを認めることはできない。

4  右のとおり、本件告発行為については、被告らに過失があつたことを認めることはできないので、右告発による不法行為との主張は理由がなく、右告発に付随してなされた原告自身に対する取調べ、もしくは、同行為に派生した新聞報道についても被告らに責任はなく、それら事由による不法行為との主張も理由がない。

三以上の次第により、原告の本訴請求は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小原春夫)

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